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町田康 / 口訳古事記

2023年4月23日初版 講談社古事記を口語訳で挑戦は町田康ワールド全開で大成功。「八岐大蛇」「因幡の白うさぎ」楽しく、「東征」などコテコテの関西弁で大王の戦いもヤクザの抗争のような荒っぽさで興奮。「日本武尊」の凶暴さ、強さが鮮烈。

村上春樹 / 街とその不確かな壁

2023年4月10日初版 新潮社1980年発表作を大幅改変した第一部に加え二部三部を加えた大作を堪能。会津の民間図書館に職を得る展開に興奮。前館主の子易さんやコーヒー店の女主人、イエローサブマリン少年が登場で充実。壁の街再訪も感動。

九段理江 / 東京都同情塔

2024年1月15日初版 新潮社芥川賞受賞作はザハ設計の国立競技場立つ近未来舞台に女性建築家が新宿御苑脇に建てる収容施設巡る物語で異色世界観に驚く。生成AIの批判的引用巧み。千駄ヶ谷周辺描写面白く、男性店員や海外記者に視点変え秀逸。

山田詠美 / 私のことだま漂流記

2022年11月21日初版 講談社毎日新聞日曜版連載の自伝小説は磐田の幼少期、鹿沼の文学少女時代、漫画家や新宿・六本木時代、作家デビューから文壇状況まで軽妙に綴り文句なしの面白さ。各種攻撃による痛みが鮮明、先輩作家との交流も興味深い。

津村記久子 / 水車小屋のネネ

2023年3月5日初版 毎日新聞出版谷崎賞受賞の新聞小説が会心。10歳違いの理佐と律の姉妹が毒親から離れ生活始める展開見事。職場の蕎麦屋にいるヨウム=ネネとの交流を10年単位で見つめ、時代背景の挿入、コミュニティの強まりも巧みに描いた。

児玉雨子 / ♯♯NAME♯♯

2023年7月30日初版 河出書房新社ハロプロ作詞家の芥川賞候補作はジュニアアイドルだった過去と大学生の現在往来し強烈で過去バレの苦痛リアル。オーディション続いた小学生時代の美砂乃との交流が臨場感。るろうに剣心な二次創作オフも意外な効果。

阿部和重 / ULTIMATE EDITION

2022年10月30日初版 河出書房新社有名曲のタイトルと同名作中心に16作品集めた短編集は持ち味十分。追い込まれた極限状況を巧みに表現して迫力。前半は旧共産圏中心にグロい作品並ぶ。後半は東京西部や神奈川のプチ犯罪、事件の一コマ描き切れ味。

あひるなんちゃら / 真夜中にコライダー団地で

2023年9月28日19:30 駅前劇場地下にコライダーあるロケット団地舞台に複数組の会話が交互に展開し持ち味。額にシール貼る者の存在、部屋、廊下、公園、屋上と次々舞台変え団地の情景に厚み。もはや老舗劇団で役者平均年齢上昇、若手起用必要か。

高瀬隼子 / いい子のあくび

2023年7月10日初版 集英社 芥川受賞第一作集は鋭さ抜群。歩きスマホへ怒り貯める優等生女子の暴走描く20年発表の表題作は婚約相手勤務先の学校でのSNS覗き見面白く展開見事。創業者像にお供えすると願い叶う社内都市伝説描く小篇も流石。

川上未映子 / 黄色い家

2023年2月25日初版 中央公論新社孤独な少女の稼ぐことへの執着と闘い描き圧倒的スピード感。黄美子さんと出会い、三茶でスナック始める展開見事で、同世代3人での共同生活も臨場感。90年代後半の時代性も映すノンストップなノワール小説に興奮。

市川沙央 / ハンチバック

2023年6月30日初版 文藝春秋 芥川賞受賞作は重度障害者の激しい思い叩きつける衝撃作。グループホーム所有し財産面で恵まれてもエロライター仕事に精を出す主人公の釈華の暴走強烈でヒリヒリする展開。ネット住人の振る舞い巧みに描く力量見事。

石井幸孝 / 国鉄――「日本最大の企業」の栄光と崩壊

2022年8月25日初版 中公新書JR九州社長務めた著者による詳細な38年の歴史に興奮。ディーゼル車の技術的解説難解も国鉄内部の興味深いエピソード満載。国会承認必要な公共企業体の限界、労使問題も触れて、JR三島会社の難しさ指摘も鋭い。

滝口悠生 / 水平線

2022年7月25日初版 新潮社硫黄島に生きた人々と子孫の戦後の日常切り取り500頁の大作が会心。戦前の島の日々と現代生きる兄妹のコントラスト見事。コロナ禍の小笠原行き、滞在時の不思議な出会い、過去の人と繋がるファンタジーも効果的。

岡田利規 / ブロッコリー・レボリューション

2022年6月30日初版 新潮社15年ぶり第2小説集は08~22年発表の5編収録で様々な企み見事。三島賞の表題作は家を出てタイ旅する女性を夫の視点で描き、途中に説明追加する文体も面白く新鮮。原発事故やコロナ禍など背景入れ方もうまい。

梯久美子 / この父ありて 娘たちの歳月

2022年10月30日初版 文藝春秋女性作家の父娘関係焦点の9品は戦中戦後の足跡描いて持ち味。二・二六事件に運命翻弄された渡辺和子、斎藤史の対比強烈。興銀で働き家族を養う石垣りんの姿に興奮。萩原葉子の父・朔太郎と係累の大胆行為も衝撃的。

沢木耕太郎 / 天路の旅人

2022年10月25日初版 新潮社9年ぶり長編ノンフィクションは1940年代に中国からチベット、インドを旅した西川一三の足跡を丁寧に追い抜群の面白さ。西川の住む盛岡に通った冒頭から執筆に至る前段見事。戦中のラマ僧での冒険の日々も興奮。

佐藤厚志 / 荒地の家族

2023年1月20日初版 新潮社仙台の書店員作家の新作は阿武隈河口付近舞台に植木屋の日常描いて会心。津波による被害後も続く悲劇がリアルで重く芥川賞受賞も納得。逃げた妻を追う男の苦悩、震災で一変した故郷の風景、旧友の没落強烈で震える。

井戸川射子 / この世の喜びよ

2022年11月8日初版 講談社若手詩人新作は「あなた」主語に描く異色の作風で芥川賞受賞。ショッピングセンター舞台に喪服売り場で働く中年女性の現在と過去交錯。フードコートの常連少女との交流いい。マイホームとキャンプの短編2作も独特。

あひるなんちゃら / エンケラドスの水

2023年1月20日15:00 駅前劇場20年2月以来のリアル公演はノーベル賞受賞の嘘を真に受け北欧へ行く展開で、研究室での駄弁楽しい。マイムや時間軸説明する演劇の約束ごとネタが最高。ワタナベミノリ起用嬉しい。値上げ許容もチラシ劣化は残念。

宇佐見りん / くるまの娘

2022年5月30日初版 河出書房新社芥川賞受賞第一作は17歳のかんこ軸に問題ありまくりの両親もつ家族描く激しい中編。久しぶりの車中泊旅行で浮き彫りになるキツい状況に圧倒される。北関東の情景描写よく、中学受験の際の父のスパルタぶり印象的。

今村夏子 / とんこつQ&A

2022年7月19日初版 講談社2年ぶりの新刊は中華料理屋舞台にカンペないと応対できない女性描き、絶妙な変化球が効くコミカルな表題作などクオリティ抜群の4編。いずれも愛すべき凡人をシニカルに毒も混ぜて描いてもマイルドな読後感は流石。

八木澤高明 / 裏横浜—グレーな世界とその痕跡

2022年5月10日初版 ちくま新書横浜市で育ったライターがディープな横浜ネタを盛り込み仕上げた一冊は、山下公園や中華街、黄金町、寿町などの歴史を掘る試み。体当たり取材で、この町に生きた市井の人の姿を活写するノンフィクション手法で成果。

町田康 / 男の愛 たびだちの詩

2022年1月1日初版 左右社Cakes連載の次郎長一代記は侠客になるまでの若き次郎長描いて持ち味発揮。生い立ち、暴れ者ぷり、家業の様子もテンポよく詳述し面白さ抜群。BL色薄めに楽しい台詞回しで町田節炸裂し、痛快コメディが大成功。

綿矢りさ / 嫌いなら呼ぶなよ

2022年7月30日初版 河出書房新社新境地短編集はダークサイド作集めジコチューな浮気男が皆に攻められる表題作中心に持ち味出ず。が、自身登場の「老は害で若も輩」出色でインタビュー記事の修正巡るライターと小説家と編集者の攻防が抜群の面白さ。

鮫島浩 / 朝日新聞政治部

2022年5月25日初版 講談社政治部中心に活躍した元朝日エース記者が綴る記者人生が生々しく興奮。食い込んだ菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨らの素顔も面白いし、デスクとして担当した「吉田調書」報道の真相が圧巻。暗転する終盤が凄い。

池上彰、佐藤優 / 日本左翼史

2021年6月、12月、22年7月初版 講談社現代新書真説、激動、漂流の3部作は、戦後の左翼組織の変遷を詳細に語って意義ある仕上がり。共産党や社会党の意外な活動ぶり、新左翼の勃興と自滅克明。資料への丁寧な引用も効果的。会話形式にせず解説中心の構成も奏…

辛酸なめ子の独断!流行大全

2021年12月10日初版 中公新書クラレ読売新聞連載コラムを14~21年分まとめた1冊は流行の儚さも実感で情報量満載。イラストも効果的でプレミアムフライデー、ペンパイナッポーからコロナ禍の注目ワードまで幅広く、その後の消息探る追記も嬉しい。

吉本ばなな / ミトンとふびん

2021年12月20日初版 新潮社喪失を癒す女性の旅行きを巧みに描く6編まとめ納得の谷崎賞受賞。金沢へ、台北へ、ヘルシンキへ、ローマへ、母や大切な友人を失った主人公が出会うものたちが絶妙。現代的な固有名詞の扱い方もうまく流石の世界感。

星野博美 / 世界は五反田から始まった

2022年7月10日初版 ゲンロン叢書作者出身地の戸越含む大五反田の歴史を掘り下げ出色の仕上がり。小林多喜二や宮本百合子が活動した戦前の無産者の町、満州へ大量移民した武蔵小山の商店街の悲劇、軍需産業を狙い撃ちされた空襲の現実も描いて興奮。

高瀬隼子 / おいしいごはんが食べられますように

2022年3月22日初版 講談社埼玉の営業所舞台に職場の人間関係をシニカル巧みに描き芥川賞納得。若手社員2人の視点で章ごとに見せ、弱者守る組織で苦闘する者たちの嵌まる穴が新鮮。美味の押しつけにストレス感じ、カップ麺に逃げる姿面白い。