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絲山秋子 / まっとうな人生

2022年5月30日初版 河出書房新社「逃亡くそたわけ」続編は九州から富山に舞台移し、19年から21年の地方都市の日常を方言まじりに日記的に記述し新味。富山と高岡に住む2夫婦の微妙な交流面白く、コロナ禍突入の後半の心情推移が巧みで技あり。

川上未映子 / 春のこわいもの

2022年2月25日初版 新潮社2年半ぶり新作はシニカルで残酷な悪夢たち。ギャラ飲み志願の女子大生に降り注ぐ残酷な評価、深夜学校に忍び込む高校生男女いいが、親友を裏切る作家描く「娘について」白眉。女優目指す友人の小劇場挑戦生々しい。

年森瑛 / N/Aエヌエー

2022年6月30日初版 文藝春秋文學界新人賞万票受賞の新人デビュー作は都心の女子校に通うボーイッシュな高校2年生主人公に同級生のヒリヒリした日常描き出色。LGBT仲間パワーの圧を巧みに表現し、SNS時代を生きる難しさ、怖さに納得感。

鈴木忠平 / 嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか

2021年9月25日初版 文藝春秋落合監督時代の中日の8年間描く「週刊文春」連載作は大宅賞受賞も納得の力作。各章に落合と関わった中日の注目人物からの視点用意、日刊スポーツ時代の筆者の日常入れて抜群の臨場感。好成績の理由も炙り出し圧巻。

乗代雄介 / 皆のあらばしり

2021年12月20日初版 新潮社三島賞受賞第一作は栃木の皆川城址で歴史好きの高校生と謎の中年男性が出会い待ち合わせ繰り返し幻の作品を探す展開面白い。江戸期の町の状況、滝沢馬琴と小津久作巡る知的な探索楽しい。終盤の意外な仕掛けに興奮。

横山和輝 / 日本金融百年史

2021年8月10日初版 ちくま新書恐慌の1920年代からの国内金融100年の歩みを昭和を代表する2人の大女優への影響と振る舞いも盛り込んで綴りユニークな一冊。中央銀行による金融政策だけでなく、株式市場の反応なども詳細に書いて意義深い。

小林エリカ / 最後の挨拶

2021年7月5日初版 講談社 シャーロック・ホームズ作品の翻訳家だった亡き父の生涯を作者含めた四人姉妹それぞれのキャラも詳細に家族の思い出、闘病の日々を時空超え織り成し見事な成果。併録「交霊」は得意のマリ・キュリー巡る幽霊の物語。

金原ひとみ / ミーツ・ザ・ワールド

2022年1月5日初版 集英社焼肉擬人化漫画MIM推し腐女子銀行員の由嘉里が死にたみキャバ嬢のライと出会うことで始まる非日常が描かれ楽しい一冊。歌舞伎町舞台にヲタ女子の言動がひたすら面白く、ホストのアサヒや作家ユキとの交流も愉快。

平野啓一郎 / 本心

2021年5月26日初版 文藝春秋リアルアバターとして働く青年描く近未来小説は格差進んだ20年後の日本舞台で迫力。自由死選んだ母のバーチャルフィギュアつくる前半重いが、異性の同居人できる展開よく、主人公の魅力増す挿話効果的で終盤流石。

砂川文次 / ブラックボックス

2022年1月26日初版 講談社芥川賞受賞作は自転車メッセンジャーとして働く男の日常を詳細に描き、後半大波乱も用意し迫力の一冊。自衛隊など転職重ね安定求める周囲の動きとの対比鮮やか。走り回る都心の地名、固有名詞頻出も時代性醸し奏功。

家近良樹 / 酔鯨 山内容堂の軌跡――土佐から見た幕末史

2021年10月20日初版 講談社現代新書薩長史観と異なる視点で幕末検証し意義。松平春嶽、伊達宗城、島津久光と四侯として改革推進した土佐藩主の言動を丹念に追い興味深い。二院制目指す理想主義が大久保ら急進派に阻まれる様が克明。強烈な酒量も驚く。

綿矢りさ / オーラの発表会

2021年8月26日初版 集英社大学一年生の海松子の不器用キャラ炸裂の恋愛未満小説は作者の持ち味発揮で大成功。KY発言連発の真面目女子に絡む「まね師」萌音の存在も楽しく、大学教授の父や江戸趣味な母住む実家至近の一人暮らし展開楽しい。

ブレイディみかこ / ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

2019年6月21日、2021年9月16日初版 新潮社上品なカトリック小学校から元底辺中学校に進学した息子との生活描く人気作が2巻で完結。ハンガリー移民の子との交流など多様性への向き合い方を探る行動と思索の日々に感嘆。日常の些細な事例の取り上げ方が巧い。

北中正和 / ビートルズ

2021年9月17日初版 新潮新書ビートルズの生きた時代と、その背景に流れていた音楽たちを辿った意欲作。博覧強記の著者ならではの情報量で、タイトルとの齟齬あってもリバプールという町の成り立ち、多様性を生んだ理由にも迫り深みある面白さ。

安田峰俊 / 「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本

2021年3月2日初版 角川書店技能実習生として不当な労働条件強いられ、逃亡しボドイになる実情を群馬など地方都市で追いかけ見事な成果。中国人の減少とベトナム人の増加。双方との意識の違いも明確に描き、家畜窃盗事件の真相も炙り出し迫力。

本谷有希子 / あなたにオススメの

2021年6月28日初版 講談社 デジタル化が進んだ近未来社会を保育園を軸に描く「推子のデフォルト」は均一化進むぶっ飛び展開。高層マンション最上階に住む自己中男の大雨の一日をコミカルに描いた「マイイベント」はあるある感たっぷりで震撼。

ナサリア・ホルト / アニメーションの女王たち ディズニーの世界を変えた女性たちの知られざる物語

2021年2月25日初版 フィルムアート社ビアンカ、レッタ、メアリーなどディズニースタジオで活躍した女性アーティストに焦点当てクロニクル形式でまとめ圧巻。白雪姫からアナ雪まで、経営不振や労働争議など社史も触れ彼女たちの苦闘ぶり詳細に描き感嘆。

金原ひとみ / アンソーシャル ディスタンス

2021年5月25日初版 新潮社ストロングゼロやプチ整形、激辛など中毒性をひりつく描写で綴った5編収める作品集は谷崎賞受賞も納得の迫力の出来。暴走する女性たちを大胆なまでの下ネタで表現、後半2篇はコロナ禍に翻弄される日常も描き壮絶。

阿部和重 / ブラック・チェンバー・ミュージック

2021年6月25日初版 毎日新聞出版新聞連載の上下段500頁近い大作はスリル満点でテンポ抜群。幻のヒッチコック論考巡る捜索劇は新潟やくざ抗争加わり、三軒茶屋から神保町、大和堆まで疾走。冴えない映画監督崩れと北朝鮮女子ハナコの交流沁みる。

村山祐介 / エクソダス アメリカ国境の狂気と祈り

2020年10月15日初版 新潮社米国とメキシコ国境めぐる現実、中米諸国を縦断するキャラバンの実態を、丹念な現地取材で炙り出した迫真ルポに衝撃。現地ギャングのマラスの脅威、アフリカやアジアの難民を追いかけコロンビアまで進む展開に興奮。

李琴峰 / 彼岸花が咲く島

2021年6月25日初版 文藝春秋八重山諸島彷彿の架空の島を舞台に二ホン語や女語操る少女と少年たちの交流軸に描いて秀逸。中国、台湾、日本巡るやや強引な設定も近未来設定の強み生かした不気味さ見事、島の風習描写も興味深く芥川賞受賞も納得。

石沢麻衣 / 貝に続く場所にて

2021年7月7日初版 講談社 震災とコロナ盛り込む独ゲッティンゲン舞台の鎮魂作は緻密な構成と硬めで隙ない文体で仕上げデビュー作芥川賞受賞。津波で行方不明となった同窓生来訪する展開は、冥王星巡る捜索譚交え、喪失物の記憶の重要性強調。

ブレイディみかこ / ブロークン・ブリテンに聞け

2020年10月26日初版 講談社 群像連載の時事エッセイ集め、18〜20年の英国社会の実情を、政治経済からテレビ、映画、パブなど筆者ならではの視点、切り口で見つめ持ち味発揮。コロナ禍の住民の意識の変化、メディアの動きも詳述し興味深い。

大西康之 / 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男

2021年2月11日初版 東洋経済新報社 素顔の江副、リクルートの起業と躍進の実際、リクルート事件の真相を、多数の関係者証言を元に立ち上がらせ迫力の一冊。クラウドの走りかは疑問だが、ベゾスとの遭遇興味深く、政界の有力者へ近づく後半部分も興奮。

真山仁 / ロッキード

2021年1月10日初版 文藝春秋 初の本格ノンフィクションはロッキード事件を多面的に検証した大著。角栄無罪主張くどいも、児玉誉士夫やCIA三人衆の横顔は興味深く、世論状況も的確、チャーチ委員会やキッシンジャーなど米側事情解説も納得感。

保阪正康 / 石橋湛山の65日

2021年4月8日初版 東洋経済新報社 政治家の石橋湛山に焦点当て、石橋内閣誕生までの動き中心に解明し秀逸。大蔵大臣での活躍、GHQとの対立、吉田茂との確執、党内勢力図も詳細。リベラリストとして揺るがない姿勢への筆者の惚れ込み具合が好印象。

小島一志 / 純情 梶原一騎正伝

2021年2月25日初版 新潮社 梶原一騎スキャンダルの真相軸に人気マンガ原作者の人生に迫り興奮。サブカル面のエピソード控えめ残念だが、3兄弟や母親、妻との複雑な関係、極真会館との蜜月と反発の様も克明で鮮烈。猪木監禁事件内実も衝撃的。

森功 / 菅義偉の正体

2021年2月1日初版 小学館新書 「総理の影」に新章加え大宅賞作家らしい力作。いちご栽培で成功した父の仕事ぶり詳細。横浜市議時代からの人脈、支援企業への厚遇ぶり具体的。NHKへの執拗な介入、総務副大臣時代からの竹中平蔵との親密ぶりも印象的。

岩瀬達哉 / キツネ目 グリコ森永事件全真相

2021年3月9日初版 講談社 80年代の注目未解決事件を事実の積み上げにより真相に迫るノンフィクションが大成功。拉致された江崎社長の自宅の状況、堤防道路での運命の15秒、名神高速・栗東のニアミス。警察内部の実情も明らかにして興奮。

北野武 / 浅草迄

2020年10月30日初版 河出書房新社 小説「フランス座」までの生い立ちまとまた格好の自伝小説2編。「足立区島根町」はお馴染みの少年時代ネタ満載。表題作はあまり語られなかった高校や大学時代のエピソード多く興味深い。併録随想はブツ切れネタ集。