2022-01-01から1年間の記事一覧

八木澤高明 / 裏横浜—グレーな世界とその痕跡

2022年5月10日初版 ちくま新書横浜市で育ったライターがディープな横浜ネタを盛り込み仕上げた一冊は、山下公園や中華街、黄金町、寿町などの歴史を掘る試み。体当たり取材で、この町に生きた市井の人の姿を活写するノンフィクション手法で成果。

鎌倉殿の13人

TV

2022年1月9日~12月18日 NHK三谷幸喜3度目の大河挑戦は小栗旬演じる北条義時軸にした鎌倉幕府創設物語。小池栄子の北条政子当たり、武将たちの葛藤を人間味あふれるキャラで描き持ち味。ただ仲間裏切り続ける展開きつく、悲惨な幕切れに唖然。

町田康 / 男の愛 たびだちの詩

2022年1月1日初版 左右社Cakes連載の次郎長一代記は侠客になるまでの若き次郎長描いて持ち味発揮。生い立ち、暴れ者ぷり、家業の様子もテンポよく詳述し面白さ抜群。BL色薄めに楽しい台詞回しで町田節炸裂し、痛快コメディが大成功。

ラッパ屋 / 君に贈るゲーム

2022年12月7日14:00 紀伊国屋ホールボードゲーム好きの集い描く新作はWキャストで戦力分散。特にジャンケン組は馴染みの役者陣薄く、持ち味出せず笑い少な目。互いにあだ名で呼び合う設定いいが、会長の仕掛け、ミッション遂行微妙で客入りも淋しい。

綿矢りさ / 嫌いなら呼ぶなよ

2022年7月30日初版 河出書房新社新境地短編集はダークサイド作集めジコチューな浮気男が皆に攻められる表題作中心に持ち味出ず。が、自身登場の「老は害で若も輩」出色でインタビュー記事の修正巡るライターと小説家と編集者の攻防が抜群の面白さ。

鮫島浩 / 朝日新聞政治部

2022年5月25日初版 講談社政治部中心に活躍した元朝日エース記者が綴る記者人生が生々しく興奮。食い込んだ菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨らの素顔も面白いし、デスクとして担当した「吉田調書」報道の真相が圧巻。暗転する終盤が凄い。

池上彰、佐藤優 / 日本左翼史

2021年6月、12月、22年7月初版 講談社現代新書真説、激動、漂流の3部作は、戦後の左翼組織の変遷を詳細に語って意義ある仕上がり。共産党や社会党の意外な活動ぶり、新左翼の勃興と自滅克明。資料への丁寧な引用も効果的。会話形式にせず解説中心の構成も奏…

池子の森の音楽祭

2022年10月29日 逗子市池子の森自然公園400メートルトラック米軍施設隣接の広場にフード&ショップ設けた市民発イベントで夕暮れに登場はスチャダラパー。ロボ宙も登場しomiyage披露。新しめ中心に開始も場の雰囲気みて90年代曲中心にシフトしブギーバックで…

辛酸なめ子の独断!流行大全

2021年12月10日初版 中公新書クラレ読売新聞連載コラムを14~21年分まとめた1冊は流行の儚さも実感で情報量満載。イラストも効果的でプレミアムフライデー、ペンパイナッポーからコロナ禍の注目ワードまで幅広く、その後の消息探る追記も嬉しい。

チェルフィッチュ / 映像演劇「階層」

2022年10月20日14:00 東京芸術劇場シアターイースト豊橋で市民と創作した映像演劇が東京で再演。岡田利規が映像作家の山田晋平と組んだ作品は舞台上に上がり奈落見下ろし、複数パネルに投影される等身大の異世界演劇人の覗き見が面白い。得意のダンス的な動…

吉本ばなな / ミトンとふびん

2021年12月20日初版 新潮社喪失を癒す女性の旅行きを巧みに描く6編まとめ納得の谷崎賞受賞。金沢へ、台北へ、ヘルシンキへ、ローマへ、母や大切な友人を失った主人公が出会うものたちが絶妙。現代的な固有名詞の扱い方もうまく流石の世界感。

星野博美 / 世界は五反田から始まった

2022年7月10日初版 ゲンロン叢書作者出身地の戸越含む大五反田の歴史を掘り下げ出色の仕上がり。小林多喜二や宮本百合子が活動した戦前の無産者の町、満州へ大量移民した武蔵小山の商店街の悲劇、軍需産業を狙い撃ちされた空襲の現実も描いて興奮。

ヨーロッパ企画 / あんなに優しかったゴーレム

2022年10月1日18:00 あうるすぽっと08年作再演は地方都市のゴーレム巡るファンタジー。野球選手のルーツ追うTVクルーの動揺と方針転換がコミカルに描かれ持ち味。様々な立場と都合で判断に差出る展開巧い。本多力不在も永野宗典や石田剛太ら健闘。

卯月妙子 / 鬱くしき人々のうた 実録・閉鎖病棟

2021年9月28日初版 太田出版統合失調症を患い二十代の精神科長期入院生活を描いた未完作が気力の執筆再開で見事完成。自らのきつい日々の生々しいドキュメントに加え、入退院する患者たちの横顔を興味深いエピソードとともに紹介し迫力の一冊。

高瀬隼子 / おいしいごはんが食べられますように

2022年3月22日初版 講談社埼玉の営業所舞台に職場の人間関係をシニカル巧みに描き芥川賞納得。若手社員2人の視点で章ごとに見せ、弱者守る組織で苦闘する者たちの嵌まる穴が新鮮。美味の押しつけにストレス感じ、カップ麺に逃げる姿面白い。

風よあらしよ

TV

2022年9月4日~9月18日22:00 NHK BSプレミアム伊藤野枝の半生描いた村山由佳作品が豪華キャストで全3回。吉高由里子の野枝新鮮で、瑛太の大杉栄もハマる。平塚雷鳥役で松下奈緒起用奏功。当時の街並み再現も見事、震災時の治安側の悪行詳細で攻めの制作に拍…

魚豊 / チ。――地球の運動について――

2020年12月~22年7月初版 小学館ビッグコミックス全8集完結の地動説巡る中世物語は異端尋問官による残酷なシーン連発で目覆うが禁忌破る真理求める者たちの姿に感動。主役級の人物が次々倒れ時代が流れる展開が新鮮、神の存在大きく価値観の異なる世界が興…

庭劇団ペニノ / 笑顔の砦

2022年9月13日14:00 吉祥寺シアター初演から改訂加え再演続けた人気作国内最終公演は漁師町の平屋アパート2部屋見せ、猟師仲間集う部屋と公務員が老母介護する部屋のコントラスト見事。漁師たちの野卑な会話、介護手伝う孫娘の葛藤もリアリティ抜群。

こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界

ART

2022年7月2日~9月4日 世田谷美術館「こぐまちゃん」で有名な絵本作家の作品群総括する本格展示が実現。シンプルな画風到達までの驚くほど多彩な作品たちに驚く。「きつねのよめいり」「おばけのどろんどろん」など原画やゲラ、関連資料が充実で流石。

絲山秋子 / まっとうな人生

2022年5月30日初版 河出書房新社「逃亡くそたわけ」続編は九州から富山に舞台移し、19年から21年の地方都市の日常を方言まじりに日記的に記述し新味。富山と高岡に住む2夫婦の微妙な交流面白く、コロナ禍突入の後半の心情推移が巧みで技あり。

ディズニー・オン・アイス2022

2022年8月21日14:30 横浜アリーナフック船長らに捕ったティンク探すミッキー一行と進む完成度抜群のステージに感動。出足美女と野獣見事で、トイストーリー、モアナ、リメンバーミーと嬉しい展開。後半もアラジン、リトルマーメイド、アナ雪と圧倒。

川上未映子 / 春のこわいもの

2022年2月25日初版 新潮社2年半ぶり新作はシニカルで残酷な悪夢たち。ギャラ飲み志願の女子大生に降り注ぐ残酷な評価、深夜学校に忍び込む高校生男女いいが、親友を裏切る作家描く「娘について」白眉。女優目指す友人の小劇場挑戦生々しい。

年森瑛 / N/Aエヌエー

2022年6月30日初版 文藝春秋文學界新人賞万票受賞の新人デビュー作は都心の女子校に通うボーイッシュな高校2年生主人公に同級生のヒリヒリした日常描き出色。LGBT仲間パワーの圧を巧みに表現し、SNS時代を生きる難しさ、怖さに納得感。

鈴木忠平 / 嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか

2021年9月25日初版 文藝春秋落合監督時代の中日の8年間描く「週刊文春」連載作は大宅賞受賞も納得の力作。各章に落合と関わった中日の注目人物からの視点用意、日刊スポーツ時代の筆者の日常入れて抜群の臨場感。好成績の理由も炙り出し圧巻。

出版120周年 ピーターラビット展

ART

2022年3月26日~6月19日 世田谷美術館1902年来の人気作記念展示は英国外初公開の原画も豊富に充実。作者のビアトリクス・ポターが元家庭教師の子供宛に送った貴重な手紙も公開で、人気作の原点確認。作者が買い取った湖水地方の農場情報も興味深い。

乗代雄介 / 皆のあらばしり

2021年12月20日初版 新潮社三島賞受賞第一作は栃木の皆川城址で歴史好きの高校生と謎の中年男性が出会い待ち合わせ繰り返し幻の作品を探す展開面白い。江戸期の町の状況、滝沢馬琴と小津久作巡る知的な探索楽しい。終盤の意外な仕掛けに興奮。

ヨシタケシンスケ展かもしれない

ART

2022年4月9日~7月3日 世田谷文学館躍進著しい人気作家の本格個展は想像力豊富に遊び溢れた魅力空間創出。入口アイデアスケッチ2000枚に圧倒、「りんごかもしれない」や「あるかしら書店」など人気作にまつわる展示充実、体感型世界で作家力実感。

渡辺源四郎商店 / 親の顔が見たい

2022年5月6日15:00 ザ・スズナリ他劇団に書き下ろした人気作は昨年の中止から1年経たリベンジ公演。いじめ自殺起きた女子校舞台に呼び出されたいじめた側の親たちのエゴ丸出しなやり取りに圧倒。08年作に納得感も、山村崇子ら青年団役者陣の演じたモンスター…

横山和輝 / 日本金融百年史

2021年8月10日初版 ちくま新書恐慌の1920年代からの国内金融100年の歩みを昭和を代表する2人の大女優への影響と振る舞いも盛り込んで綴りユニークな一冊。中央銀行による金融政策だけでなく、株式市場の反応なども詳細に書いて意義深い。

五反田団 / 愛に関するいくつかの断片

2022年4月28日15:00 アトリエヘリコプター2年前の中止作の復活公演は別の場所の4部屋を見せる複雑巧妙な劇構造で恋愛サスペンス挑戦成功。恋人の浮気疑うヒロイン加奈役で鮎川桃果が輝き、友人に相談する体の軽めの会話が最高に笑える。宮部純子も新境地。