綿矢りさ / 私をくいとめて

2017年1月30日初版 朝日新聞出版社
朝日新聞連載作は33歳独身女性のおひとりさま日々面白く、ノゾミ先輩のキャラ素晴らしい。料理貰いに来る多田くんとの交際もユニークでいいが、肝心の自身の中に棲むAの存在微妙。終盤飛行機内描写はくどく冗長。

旦部幸博 / 珈琲の世界史

2017年10月18日初版 講談社現代新書
医学博士による著者ながら珈琲を巡る政治や社会の動きをしっかり抑えて会心。珈琲ハウスなど欧州での普及の動きも面白いが、アフリカ・中東から東南アや中南米に広がるコーヒーノキの増産と生産統制の歴史にも興奮。

村上春樹 / 騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編

2017年2月25日初版 新潮社
戦中の雨田兄弟に起きた悲劇描き謎を追求する展開は伊豆の病室から始まる異界への冒険譚でらしさ増す。終盤少女まりえ軸の空白の日々回想も面白く、その後の日々描いた64章ですべて決着つき、3部刊行期待薄れる。

沼田真佑 / 影裏

2017年7月30日初版 文藝春秋
岩手の職場で働く釣りが趣味の男の地味な生活描きデビュー作で芥川賞受賞快挙。同じ職場だった日浅との微妙な友情興味深く、職場変わってから怪しさ増し、被災という現実の発生後に深まる日浅の生き様の謎が効果的。

延江浩 / 愛国とノーサイド 松任谷家と頭山家

2017年3月17日初版 講談社
昭和生きた両家を描くノンフィクションは脱線の連続なエピソード重ね、政治部分は粗さ目立つも、松任谷正隆筆頭に松本隆細野晴臣ら70年前後のミュージシャンのプロフィールに迫った部分は迫力で圧倒的な情報量。

上原善広 / 路地の子

2017年6月15日初版 新潮社
大阪の更池で生まれ育った父の半生描く意欲作は食肉業で成功する過程面白く、上原龍三のキャラ強烈で、身内の交友関係も赤裸々に描いて迫力。往時の屠場の雰囲気や実情も詳述され、同和利権の構造も解き明かし興奮。