ろりえ / 下北沢の駅前でやる祭り2023夏(「かわいい妹」「ネタ書いてる方芸人とラストイヤーイマジネイションズ」他)

2023年8月27日14:00 駅前劇場祭りというだけあり盛りだくさん大増量オムニバス公演。不気味な花火の一夜描く福名理穂の新作いいが、崖っぷち芸人たち描く奥山雄太新作が素晴らしく荒井玲良の魅力爆発。歌手でも登場の安藤理樹の多才ぶりに感服。

川上未映子 / 黄色い家

2023年2月25日初版 中央公論新社孤独な少女の稼ぐことへの執着と闘い描き圧倒的スピード感。黄美子さんと出会い、三茶でスナック始める展開見事で、同世代3人での共同生活も臨場感。90年代後半の時代性も映すノンストップなノワール小説に興奮。

市川沙央 / ハンチバック

2023年6月30日初版 文藝春秋 芥川賞受賞作は重度障害者の激しい思い叩きつける衝撃作。グループホーム所有し財産面で恵まれてもエロライター仕事に精を出す主人公の釈華の暴走強烈でヒリヒリする展開。ネット住人の振る舞い巧みに描く力量見事。

NODA・MAP / 兎、波を走る

2023年7月4日19:00 東京芸術劇場プレイハウス高橋一生人気過熱公演はアリス、ピーターパンから始まる異世界への旅。三里塚、よど号から北朝鮮へ、松たか子が娘待つ親好演。不条理劇と謳うも時事的切り口強め。大倉&野田で演じた劇作家2人の作家性強烈で笑…

石井幸孝 / 国鉄――「日本最大の企業」の栄光と崩壊

2022年8月25日初版 中公新書JR九州社長務めた著者による詳細な38年の歴史に興奮。ディーゼル車の技術的解説難解も国鉄内部の興味深いエピソード満載。国会承認必要な公共企業体の限界、労使問題も触れて、JR三島会社の難しさ指摘も鋭い。

滝口悠生 / 水平線

2022年7月25日初版 新潮社硫黄島に生きた人々と子孫の戦後の日常切り取り500頁の大作が会心。戦前の島の日々と現代生きる兄妹のコントラスト見事。コロナ禍の小笠原行き、滞在時の不思議な出会い、過去の人と繋がるファンタジーも効果的。

バストリオ / ちちち

2023年5月2日14:30 SCOOL第11回公演は山下澄人「壁抜けの谷」原案に出演者共作のパフォーマンスで持ち味十分。空間内にペインティングや演奏など多様な要素盛り込み、水の使い方も効果的。橋本和加子が牽引だが枠組みはみ出す試みに拍手。

岡田利規 / ブロッコリー・レボリューション

2022年6月30日初版 新潮社15年ぶり第2小説集は08~22年発表の5編収録で様々な企み見事。三島賞の表題作は家を出てタイ旅する女性を夫の視点で描き、途中に説明追加する文体も面白く新鮮。原発事故やコロナ禍など背景入れ方もうまい。

梯久美子 / この父ありて 娘たちの歳月

2022年10月30日初版 文藝春秋女性作家の父娘関係焦点の9品は戦中戦後の足跡描いて持ち味。二・二六事件に運命翻弄された渡辺和子、斎藤史の対比強烈。興銀で働き家族を養う石垣りんの姿に興奮。萩原葉子の父・朔太郎と係累の大胆行為も衝撃的。

末次由紀 / ちはやふる

2008年5月~22年12月 講談社BE-LOVEKC百人一首に取り組む高校生たち描いた傑作が50巻で完結。綾瀬千早の魅力抜群だが、脇役キャラの掘り下げも巧みで、クイーン戦でも随所に大会関係者の群像劇挿入し圧巻。部の創設から継承にも目配りした構成も見事。

沢木耕太郎 / 天路の旅人

2022年10月25日初版 新潮社9年ぶり長編ノンフィクションは1940年代に中国からチベット、インドを旅した西川一三の足跡を丁寧に追い抜群の面白さ。西川の住む盛岡に通った冒頭から執筆に至る前段見事。戦中のラマ僧での冒険の日々も興奮。

ナイロン100℃ / Don't Freak Out

2023年3月14日14:00 ザ・スズナリ久しぶりのスズナリでの本公演は松永玲子&村岡希美をW主演に戦前の屋敷・女中部屋を舞台に悲劇、惨劇描いて持ち味。顔白塗りで笑い控えめでも不気味な可笑しさ醸してうまい。姉妹働く異常空間で狂気が冴え渡った。

ブラッシュアップライフ

TV

2023年1月8日~3月12日22:30 日本テレビバカリズム脚本×安藤サクラ主演のタイムリープコメディは公務員、TV局社員、研究医、パイロットなど各周の人生リアルで大成功。夏帆、木南晴夏、水川あさみとの女子の友情、時代映す雑談奏功。染谷将太もいい味。

佐藤厚志 / 荒地の家族

2023年1月20日初版 新潮社仙台の書店員作家の新作は阿武隈河口付近舞台に植木屋の日常描いて会心。津波による被害後も続く悲劇がリアルで重く芥川賞受賞も納得。逃げた妻を追う男の苦悩、震災で一変した故郷の風景、旧友の没落強烈で震える。

井戸川射子 / この世の喜びよ

2022年11月8日初版 講談社若手詩人新作は「あなた」主語に描く異色の作風で芥川賞受賞。ショッピングセンター舞台に喪服売り場で働く中年女性の現在と過去交錯。フードコートの常連少女との交流いい。マイホームとキャンプの短編2作も独特。

月に吠えよ、萩原朔太郎展

ART

2022年10月1日~23年2月5日 世田谷文学館20世紀初頭に下北沢に住み詩作続けた朔太郎の原稿やノートを展示。現代の美術家や漫画家による朔太郎作品面白く、松本大洋「東京の青猫」に感動、金井田英津子「猫町」も新鮮。TOLTAの体感作品なども嬉しい。

祈り・藤原新也

ART

2022年11月26日~23年1月29日 世田谷美術館「メメントモリ」など旧作も一挙展示する50年の強烈な旅の軌跡。アジアの地べたで捉えた写真中心に250点以上の作品群で香港の民主化デモ、渋谷ハロウィンも並ぶ。終盤の三浦百恵、小保方晴子、伊藤詩織に興奮。

藤本タツキ / さよなら絵里

2022年7月9日初版 集英社母の死に向かう日々を映像に残し公開した少年が出会った謎の女の子、絵里との交流を得意のタッチで描いて成功。映画のようなコマ割り効果的で、2人が新たに始める映画づくりが強烈。全体に漂う死のムードもマッチ。

あひるなんちゃら / エンケラドスの水

2023年1月20日15:00 駅前劇場20年2月以来のリアル公演はノーベル賞受賞の嘘を真に受け北欧へ行く展開で、研究室での駄弁楽しい。マイムや時間軸説明する演劇の約束ごとネタが最高。ワタナベミノリ起用嬉しい。値上げ許容もチラシ劣化は残念。

宇佐見りん / くるまの娘

2022年5月30日初版 河出書房新社芥川賞受賞第一作は17歳のかんこ軸に問題ありまくりの両親もつ家族描く激しい中編。久しぶりの車中泊旅行で浮き彫りになるキツい状況に圧倒される。北関東の情景描写よく、中学受験の際の父のスパルタぶり印象的。

艶∞ポリス / 恥ずかしくない人生

2023年1月12日14:30 新宿シアタートップス主役女優が怪我で降板の労作は留置所舞台にダメ女子たちの生態面白い。関絵里子演じたヒロインはじめ留置担当官の人間関係凄まじくパワハラの嵐も、したたかな新米女子演じた里内伽奈光る。終盤ラップの展開が最高。

今村夏子 / とんこつQ&A

2022年7月19日初版 講談社2年ぶりの新刊は中華料理屋舞台にカンペないと応対できない女性描き、絶妙な変化球が効くコミカルな表題作などクオリティ抜群の4編。いずれも愛すべき凡人をシニカルに毒も混ぜて描いてもマイルドな読後感は流石。

いちげき

TV

2023年1月3日21:00 NHKクドカン脚本の正月時代劇は幕末舞台の泣き笑い青春エンタメ。染谷将太、町田啓太ら演じる農民特殊戦闘部隊の薩摩藩士との闘いに興奮。伊藤沙莉が流石のアクセント。女郎ら2役演じた西野七瀬のヒロインぶりに感動。

八木澤高明 / 裏横浜—グレーな世界とその痕跡

2022年5月10日初版 ちくま新書横浜市で育ったライターがディープな横浜ネタを盛り込み仕上げた一冊は、山下公園や中華街、黄金町、寿町などの歴史を掘る試み。体当たり取材で、この町に生きた市井の人の姿を活写するノンフィクション手法で成果。

鎌倉殿の13人

TV

2022年1月9日~12月18日 NHK三谷幸喜3度目の大河挑戦は小栗旬演じる北条義時軸にした鎌倉幕府創設物語。小池栄子の北条政子当たり、武将たちの葛藤を人間味あふれるキャラで描き持ち味。ただ仲間裏切り続ける展開きつく、悲惨な幕切れに唖然。

町田康 / 男の愛 たびだちの詩

2022年1月1日初版 左右社Cakes連載の次郎長一代記は侠客になるまでの若き次郎長描いて持ち味発揮。生い立ち、暴れ者ぷり、家業の様子もテンポよく詳述し面白さ抜群。BL色薄めに楽しい台詞回しで町田節炸裂し、痛快コメディが大成功。

ラッパ屋 / 君に贈るゲーム

2022年12月7日14:00 紀伊国屋ホールボードゲーム好きの集い描く新作はWキャストで戦力分散。特にジャンケン組は馴染みの役者陣薄く、持ち味出せず笑い少な目。互いにあだ名で呼び合う設定いいが、会長の仕掛け、ミッション遂行微妙で客入りも淋しい。

綿矢りさ / 嫌いなら呼ぶなよ

2022年7月30日初版 河出書房新社新境地短編集はダークサイド作集めジコチューな浮気男が皆に攻められる表題作中心に持ち味出ず。が、自身登場の「老は害で若も輩」出色でインタビュー記事の修正巡るライターと小説家と編集者の攻防が抜群の面白さ。

鮫島浩 / 朝日新聞政治部

2022年5月25日初版 講談社政治部中心に活躍した元朝日エース記者が綴る記者人生が生々しく興奮。食い込んだ菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨らの素顔も面白いし、デスクとして担当した「吉田調書」報道の真相が圧巻。暗転する終盤が凄い。

池上彰、佐藤優 / 日本左翼史

2021年6月、12月、22年7月初版 講談社現代新書真説、激動、漂流の3部作は、戦後の左翼組織の変遷を詳細に語って意義ある仕上がり。共産党や社会党の意外な活動ぶり、新左翼の勃興と自滅克明。資料への丁寧な引用も効果的。会話形式にせず解説中心の構成も奏…